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原田組と関東一の裏組織「帝愛」との抗争はクライマックスへと突入していた。
ここ都内某所のホテルでは原田と帝愛のエース一条とのサシ打ちが行われていた。

ラスハン。14000点の差で原田がリードしていた。原田のリーチ後…

一条「(ここで振り込むわけには行かない…!俺のこの手上がればハネ満で2000点差だ……。
   どれを切るか…。…このへんなら大丈夫だろう…)」
原田「それや…ロン…!」
一条「…!な……」
原田「12000点…満貫や…!」
一条「(バカな…まるで牌が透けて見られてるようだ…!」

村上「ちょっと…一条さん…」

その時、帝愛の組員の一人である村上が一条へ話しかけてきた。

一条「…あ?横槍入れるなよ…。…大丈夫だ…!まだ追いつける…」
村上「ち、違うんです。あそこ見て下さい」

村上はホテルの窓の外を指差した。
窓から見える向こう側のホテルのベランダで、一人の男がじっとこっちを見ていた。

一条「…何だあいつ…?こっちをじっと見て…」
村上「私が思ったのはですね、あの位置から一条さんの手牌が見えますよね」
一条「…まさか…イカサマっ…!?」
村上「ちょっと…気になったんです」
原田「聞こえたで。何やて?もういっぺん言うてみいや…」

イカサマと言う言葉を聞いて原田がすぐに突っかかって来た。

黒服(原)「オウ〜何抜かしとんじゃい!」
黒服(原)「もういっぺん言うてみろコラァ!!」

まるで合唱するように原田の後に黒服が続く。一人が村上の胸倉を掴んだ。

村上「ちが、違うんです。あそこに人がいて…」

村上が再び窓を指差した。一同は一斉に村上の指差す方向を見た。
こっちをじっと見る人影は赤木しげるだった。バスローブ姿だった。

原田   「あっ……。…赤木やないかい…!…何してんねやあんな所で…」
一条   「何っ!やっぱり知り合いじゃねえか…!怪しいぞ!」
原田   「ちゃうわい!関係ないわ!たまたま知り合いなだけやボケ!」
兵藤   「原田さん…。これは一体どういう事かな?」
原田   「ちゃいますて。だから…」
黒服(帝)「お前ら!!舐めた真似してタダで済むと思うなよ…!」
黒服(原)「何やとコラァ!やれるもんならやってみいや!!」

場は無駄に揉めた。

原田   「ラチがあかんわ。おい…誰か言うてこいや。赤木に。」
黒服(原)「あの場所から離れてもらうんですか?」
原田   「せや。部屋に引っ込め言うてこい。見られてたら…困る言うてこい」

黒服(原)が赤木のホテルまで行くことになった。
勝負は中断され、一同はホテルの見える窓をうかがっていた。




やがてホテルのベランダの赤木の部屋に派遣された黒服(原)が顔を出した。
二人でベランダに出て話をしている。

黒服(原)「あの……。あっちのホテルで麻雀やってるんですけど。見てはったからご存知かと思うんですけど。
       ちょっと、赤木さんに見られてたら、ちょっと困る感じでして」
赤木   「何で?」
黒服(原)「いやちょっと、原田さんとほらお知り合いでしょ。それがちょっと」
赤木   「いや別に、そんな深い知り合いでもねえよ。そんなの気にせずにやってりゃいいじゃねえか」
黒服(原)「いやでも…。やっぱりお知り合いってのがちょっと…」
赤木   「何にもしねえっつの。てかもう俺、そろそろ寝るんだけどな」
黒服(原)「ああ…それでしたら…!いや、すんません本当。こんな時間に」




二人がベランダから見えなくなった。そのうち黒服(原)が帰ってきた。

原田   「引っ込んだみたいやな」
黒服(原)「もう寝るとか言うてました」
原田   「なんや…。早く寝ろっちゅーねん。…あー、兵藤さん。赤木引っ込んだみたいやから…」
兵藤   「まぁ…一応信用しておこう…」




勝負が再開された。オーラスで一条に流れがやって来た。4順目で純チャンでテンパイ。
マンズが一〜九 ピンズが(1)〜(9) ソーズが1〜9だとしたら

一一一九九九(1)(1)(9)(9)123


↑みたいな感じになった。だがそれだけじゃ逆転出来ない。
一条は勝負に出た。
対面の原田の打(1)をロンでは無くポンする一条。そして打3。
その後になんと(9)を引き入れた一条。打2。


一一一九九九(1)(1)(1)(9)(9)(9)1


一条「(うおお…!これで清老頭上がれたら48000点で逆転出来るじゃねえか…!
     おっと…顔に出たらまずい…。慎重に行くぜ…慎重に…)」

顔に出さずに一条は念じた。

一条「(1来い…1来い…)」

その時村上が一条に話しかけた。

村上「い…一条さん…」
一条「ア?何だよっ…!」
村上「いや、あの…また…

一条は後ろを振り向いた。窓の向こうのホテルのベランダにまた赤木がいた。こっちをじっと見ている。

一条「…あああっ…!…おいっ…またいるじゃねえか!!」
原田   「何やて?…あっ…ほんまや…」
一条   「おいっ…どういう事だよ…!?またこっち見てるじゃねえかよ!」
原田   「ちょ…待てや。アイツは関係ない言うてるやん。…おいアイツまだおんねんで!!」
黒服(原)「すんません…!寝る言うてはったんですけど…。部屋ん中入る言うてはったんですけど」
原田   「言い方がちょっと優し過ぎたからあかんねん。もっとバシッと言うてこいや!
      お前とお前も行け。三人ぐらいで行ってこいや」





原田に言われて今度は三人の黒服が赤木のホテルへと向かった。





黒服(原)「あの…ちょっとまた来て申し訳ないんですけど…」
赤木   「何だっつーんだよ?勝手に続けてりゃいいじゃねえか別に」
黒服(原)「赤木さんが見てはるとちょっとコッチ困るんですわ」
赤木   「なんでよ」
黒服(原)「ですから…。お知り合いじゃないですか。原田さんと。
       でやっぱり牌が見えてたりするとですね、
       相手のほうがですね、やっぱりほらサインとか送ってるかも…とか
       言い始めたりするわけですよ」
赤木   「いや、しねえし。俺そんな事。何のメリットがあるわけソレ?」
黒服(原)「まあ確かにそうなんですけども…。どうにもやり辛かったりするんですわ」
赤木   「そうかぁ…?ああ、分かった分かった」
黒服一同 「お願いします」
赤木   「分かったよ」




やっと部屋に戻った赤木。勝負は再開される事になった。



一条「(くそ…一回でも牌見られてたら振り込まれねぇじゃねーかよ…!
     納得行かねえ……。…あ…!)    よっしゃ…! ツモ!
原田「…何ぃ!?」

一条は無事1をツモって役満を上がった。

一条   「16000点オール…逆転だぜ…ククク…」
原田   「チッ…悪運の強いガキや…」
黒服(原)「…あ!」
原田   「…何やっ…!(怒)」
黒服(原)「いや…また…」

赤木のホテルの窓のカーテンを開けてこちらを覗いてる人影がある。赤木である。

原田「…まだおんねんで…」
一条「おい…いい加減にしろよな…」
原田「ちょっとおい、俺の携帯貸せや」

原田は赤木に直接電話した。

赤木「よう」
原田「赤木か」
赤木「原田か?何だ?」
原田「いやあのな…。分かってんねと思うけど、今コッチ麻雀してんのや」
赤木「ああみたいだな」
原田「おお。でな、お前がコッチ見てるといろいろ揉めて困るんじゃ」
赤木「ああそうなのか。っつってもよ、それってどうなんだっつーか。
    勝手にやってりゃいいじゃねえかよ」
原田「いやまあそうやねんけど…。…お前ところで何してんねや」
赤木「何っつうか、まあ寝ようとしてるんだけどよ」
原田「はよ寝ろやだったら…」
赤木「ア?いつ寝ようが勝手だろうがよ。今から寝るっつってるじゃねえか」
原田「分かった、分かった…。じゃあまあ、寝てくれや。な。」
赤木「でも何だっつーのよ?そっちの問題だろそれは。さっきからお前らゴチャゴチャうるせえんだよ…」

赤木は急にキレはじめた。

原田「いやだからな。…ちょっと話聞いてくれや。
   今な、麻雀してんねん。帝愛っちゅーて大御所や。デカい金動いてんねん。
   でな、お前見てんやろ。お前俺の知り合いやんけ。だからやっぱ疑いかかんねん。
   分かるやろ。そういうの」
赤木「いやそりゃ分かるけどよ。でもよ、別にここ、俺泊まってるわけだし」
原田「ああ、そりゃそうやな。その通りやねんけど」
赤木「けど、って何だよ。何なんだよ?なんか俺したか?なあ」
原田「いや、してへん。してへんけどな」
赤木「なんだかなあ…。そういう言い方とか何なのっていうか。なあ。
    いくらお前でも…なあ。ちょっとガックリ来てるぜ」
原田「…すまんな、それはホンマ」
赤木「なんかさすがにちょっと気分悪ぃっつーか…なあ。どうなのよ、って感じだな」
原田「…悪かったわ。それはこの勝負終わったら、改めて謝りに行くわ」
赤木「改めてって…何だそれ?こんな電話でよ、何言ってんだオマエ」
原田「いやだから、終わったら直接行くから。お前んとこ」
赤木「いやなんか、顔見るのもちょっとな、ガックリ来てるからよ」
原田「いや足運ぶだけじゃのうて、誠意ちゅうか、ちゃんと形にしてほら。まあ迷惑かけたし。
   迷惑料みたいなのもちゃんとな」
赤木「まあ、それがお前の誠意っつーなら、それはそれでいいけどよ」

村上「何か流れおかしくないですか」
一条「やくざよりやくざみたいな人だな」

赤木「なんかそういう気持ちみたいな ちゃんと形でこう あるんだよな?」
原田「せや。そういうわけっちゅーわけでもないねんけど、取り合えず今日は部屋入ってくれや」
赤木「分かった分かった」
原田「じゃあ、またな」




黒服(原)「引っ込みました?」
原田   「ああ。もうええわ金でどうにかなるならそれでええわ」
一条   「…もういいんだな?」
原田   「ああ待たせたな。…じゃあ続けるかい…」




あれこれ麻雀…

黒服(原)「原田さん原田さん…」
原田   「なんやねんな…!」
黒服(原)「電話です。赤木さんから」
原田   「…何でや!
一条   「おい…何やってんだよ勝負の最中にさっきから!?」
原田   「もうええわお前出とけや…。今はこれ終わらせなあかんやろ」
黒服(原)「分かりました。…もしもし…」
赤木   「ああ、俺だけど」

村上   「あ、…また出てきましたよベランダに…」

赤木   「あのな、さっきのな、なんかそれなりのな、なんかモノを形にするっつってたじゃねえか」
黒服(原)「ええそれははい。それに関しては明日にでももう、私どものほうからそちらへ」
赤木   「それはそれで全然かまわねえんだけどな。まあ、それとな。
      俺まあ、プロって言い方は嫌いだけどよ、まあ麻雀で食ってるわけじゃねえか。一応」
黒服(原)「ええまあ、そうですよね。はい」
赤木   「お前俺のこと知ってるよな?」
黒服(原)「ええもちろん。当然。伝説の方ですからそれは。個人的にもファンですし」
赤木   「ああ、そりゃどうも」

原田   「(なんやねんそれ何の話や…)」

赤木   「でな、まあこういう形にせよ、結局そっちの…何だ?組同士の打ち合いか?それを見たわけじゃねえか」
黒服(原)「ええ、そうですねはい」
赤木   「こんな近くでよ。こんな…なあ。で、博打っつーのは結局流れとかツキとかそういうもんだろ」
黒服(原)「…え?…ああはい、まあ」
赤木   「でまあ、流れてると思うんだよ。俺のツキが
黒服(原)「…は?
赤木   「分かんだろ。でその利益分をな、ちゃんと考えてんのかなっつー話なんだけどよ」
黒服(原)「…………」

原田   「何やねんどうしたんや…」
黒服(原)「ハァ…。…なんか、自分と関わったぶん、ツキが流れてるとかそういうので、
      その分の金もですね…もらいたいとか…」
原田   「…………。

       なんじゃいそりゃあ!!!

一条   「おいっ!お前の番だぞ!」
原田   「ああもう…しゃあないわ!払うとけ!今はとりあえずこれ終わらせなあかんやろ!」
黒服(原)「…分かりました…。…もしもし…。あの、そのツキ…の分もちゃんと明日、持っていきますんで」
赤木   「ああ。良かったなお前ら。俺と会ってから勝ってるだろそっち?」
黒服(原)「(アンタが出て来てから負けてますが…)いやもう、はい。だからそういう事で」
赤木   「じゃあよ、今から俺取りに行くから
黒服(原)「…はっ…?」
赤木   「いやな、俺明日早くから出るからよ。寝る前にな」
黒服(原)「そうですか。…ええと取りにって言いますと?」
赤木   「だから俺は何も言ってねえけどな、そっちが言ったそれなりの形のあるもんをな。
      あとツキの分を。今から行っていいか? ……あ、悪いな手間取って

赤木が何やら誰かに話しかけた。ベランダの窓に赤木の他にもう一人の人影が顔を覗かせた。

村上「何かもう一人居ますよ一条さん」
一条「複数犯かよ…?どうなってんだよお前ら…」
原田「(……。なんやねん…。…あれ……ひろゆきやんけ…。また知り合いやないか…。
    また騒がれるから黙っとかなあかんわ)」

赤木「悪ぃ。友達だよ今の。つうか俺もそろそろ眠ぃからよ、じゃあ今から行くからよそっち。じゃあ…」

電話が切れた。

原田   「…なんや…どうなってんねや」
黒服(原)「…はいあの…迷惑料とツキ料…を今から取りに来るらしいです」
原田   「…何やて!?対局中やないかい!!何考えてんのやアイツは…!」
一条   「いい加減にしろ何なんだよ!?勝負になんねえじゃねーか!!」
原田   「じゃかしいわ!!もうなんや…休憩や休憩!!30分休憩や!」
一条   「そんな勝手な…」
原田「じゃかあしいんじゃ!!!」

ホテルに原田の怒声が鳴り響いた。
すぐに赤木は来た。バスローブ姿のままだった。



赤木   「よう。悪いな取り込み中。用事済んだらすぐ帰るからよ」
原田   「なんちゅー格好やお前…。もうほら、さっさ払えやお前」
黒服(原)「はいあの…ちょっと今用意しますから」
赤木   「ククク…。それにしても原田よ…。さっきの3半荘目のほら…。上家に8をポンさせたろお前。誤ポン。
      で罰符払えずにゲーム流して対面の和了防いだよな。まあそれはいい作戦なんだけどよ。
      でもお前…」
原田   「…ちょ、ちょっと待てや…!今ここですんなや麻雀の話は…!」

麻雀の話が聞こえて、少し離れた所のソファーで休憩を取っている帝愛組の視線が集まる。

赤木   「いやいや…でもお前流れが見えてねえぜ。俺ならそんな事はしねえ。思い出してみろお前の手牌を…」
一条   「おいお前ら何話してんだっ…!おい!
原田   「分かったわ…!なんぼや!お前なんぼ欲しいんや!!」
赤木   「え、なんぼって…。まあそれはそれでいいけどよ…。別に要求したわけじゃねえんだけどな…」
原田   「ええからもう…また上乗せするからそれは俺の気持ちやから…麻雀の話は今はな、
      後でゆっくり聞かせてくれや。…おいその分も入れとけ」
黒服(原)「…分かりました…」
赤木   「あ、つーかな。さっき見ただろ。俺の友達居たじゃねえか俺のホテルに」
黒服(原)「…ええはい、居てはりましたね」
赤木   「お前らさっき何回も俺の部屋来ただろ。ドカドカとよ…。こんな深夜に何人も。
      いや俺はお前らみたいなの慣れてるぜ?俺は全然いいんだけどよ。
      友達は普通の市民だからよ。ちょっとビックリしちゃったみたいでよ。
      やっぱお前らみたいなのは普通の市民は…暴力団と同じだからな。
      押し入られたみたいなものだろ。なあ?怖がってたしな」
黒服(原)「………ハァ……。まあ…」
原田   「(…ひろゆきが怖がるて。嘘付けや…。10代の頃からやくざの代打ちやってたやないか…)」

赤木   「で俺、法律とかあんま詳しくねえんだけどよ、アイツは普通の市民だからよ。まぁ、告訴とかな。
      そういう事も考えてるみてえなんだよ。で、俺は面倒なの嫌いだからよ。
      今ここで話付くなら付けてやってもいいと思うんだけど、どうだよ。
      まあ、精神的なな。慰謝料っつーかな」
原田   「…その分も入れとけ…」
黒服(原)「…はい……」
赤木   「まあそっちの組長は知ってるかもなんだけど、アイツも博打打ちだからよ。アイツのツキの分もな当然」
原田   「(今総額いくらやねん…)」
赤木   「で当然、俺より多めで
黒服(原)「…ええと……それは…」
赤木   「だから。あいつ素人だろうが。俺は実際慣れてるからそうでもねえけどよ、
      俺と比べてどうすんだよ。俺なんかより全然…精神的なもんは大きいだろうが。
      普通の市民だぜ。分かるだろ?だからさっき言った俺の全部より、やっぱ多くな」
黒服(原)「…ええと…赤木さんよりお友達の分は多めで…」
赤木   「ああ。倍ぐらいじゃねえ?



黒服(原)「ではこれで…本当すんませんでした」

金の入った封筒を渡す黒服。

赤木「ああ…じゃあな。なんかごちゃごちゃしたけどよ。まあそういう事で。
    原田も。またな」
原田「…ああ…またな…」

赤木は帰っていった。




原田   「……なんかもう…気ィ抜けたわほんま…」
黒服(原)「…というかあの…帝愛の奴ら帰ったみたいですけど
原田   「…もうええわ。メシでも食い行こうでメシ…。疲れたわ…」





翌朝、その金を持って赤木はひろゆきと一緒にラスベガスへ遊びに行ったという。




end.   




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元ネタはガキ使の「板尾が見てる」からでした。