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俺が最初に赤木を見たのは俺が15の時。昭和39年だ。

当時大阪の自宅を抜け出しては色んな所にほっつき歩いていた。
中でも新宿は頻繁に行っていた。
当時の東京は西と東の抗争が激しく、まだ山口系列だった原田組は忙しかった。
そんなかで俺はジッとしてられなかった。
少しでも早く大人になって原田組をデカくしたかった。



赤木を見たのは歌舞伎町の路上。人殺しの現場だった。
殺ったのは赤木。
首にナイフが突き刺さった死体を前にして、無気力に壁際に座りこんでいた。

「おい。何してんねんお前。こないな所で座り込んどったらすぐに警察来るで」

異様な男だった。年は20前後。髪が白髪。
人を殺した後だと言うのに、なんというか・・・退屈そうな表情をしていた。

俺は赤木に興味を持った。

「おい。近くに俺の家がある。匿ったるから、来いや」

赤木はすんなりついて来た。
近くで見ると、ゾッとするような美形。そして何かイラついている。
喧嘩ジャンキーのチンピラか。俺の最初の印象はそれだけだった。

「ククク・・・似合ってないぜ。その服」

赤木が初めて喋った。綺麗な声だった。

「あ?」
「大阪弁・・・。チンピラみてぇな安物の服を着てるが身のこなしがいい。
 大阪の原田組か極西組あたりの組長の息子ってところか」

俺は焦った。変装は完璧にして家出することにしてるからだ。
それだけ当時の東京は荒れていた。
俺がヤクザの組長の息子だとバレたら大変なことになる。

「・・・・。
 ワレ何モンか知らへんけど、余計に詮索すると命を落とすで」
「お前に殺されるわけ?めんどくせぇ・・・。殺しなんてもう飽きたんだ」

なんや、コイツ。
会ったことが無い人種や。

新宿の俺の家に着いた。
そこには女を住ませていた。

「スマン、今日はちょっと外泊してくれんか」
「嫌よ!今日会うって約束してたじゃない!」
「ほれあの男・・・。重症やねん。モメ事起こしとるから病院にも行けへん。
 今夜泊まらせてやらなあかんねん」
「だったら看病はあたしが・・・・」

言い争ってる間、赤木は壁にもたれて退屈そうにしていた。
重症どころか、無傷だ。

女に金を払って追い払い、赤木を家に入れた。
服を脱がすと打ち身のアザすらない。
服に血すらついてない。

「沖田総司みたいなヤツやな」
「・・・・・・・・」
「変なヤツや。何でそないに退屈そうな顔してんねや」
「何もかもつまんねぇんだよ・・・」
「ならええもんやろか?」

俺はラッキーストライクに隠してた紙袋を出した。

「・・・・・?」
「やったことあるか?」
「ピロポン・・・」
「無いやろ。ポン中には見えへんからな。
 少なくとも人殺しよりはおもろいで」

俺の紙袋に入ってた粉は中国から輸入した極上のコカイン。
当時はシャブとか、ピロポンとか呼ばれていた。

これをやると1000回は天国に行ける。

俺は正直、赤木に欲情していた。
コイツをぶち込んで赤木とSEXしたくなっていた。

赤木の返事も待たずに、部屋に用意してあったスプーンにコカインを入れて
少量の水を足し、ライターで炙って準備する。
ポンプ(注射器)も用意していた。

赤木は黙って見ていた。
さっきよりは少し好奇心のある視線を感じた。

液体化したコカインをペロリと舐める。

「やばいで。お前も舐めてみぃ」

赤木が舐める。少し蒸気したような顔になる。

「大丈夫か?コレを静脈に打ち込むんやで。
 お前暴れたりせぇへんやろな」
「大丈夫」

ポンプにコカインを入れて、赤木の上腕をネクタイで締める。
まずは赤木から。打ち役の俺が飛んでしまったら話にならないからだ。

赤木を仰向けに寝かせて、右腕の静脈の位置を探す。
赤木は少し緊張していた。そんな赤木の変化に俺はまた欲情した。





Shot!






ゆっくりとピストン。



コカインが赤木に入って行く。



突然赤木が跳ねた。

目が大きく開く。

「どうや?」
「なるほど・・・コイツはすげぇ」

確認してみると瞳孔が開いている。
赤木は飛んだ。



赤木の腕のネクタイを外して今度は俺だ。
俺も飛んだ。





「ああ・・・最高や・・・」

「確かに殺しよりはおもしれぇ。」

「最高やろ?」

「いや、最高じゃないね」

「最高やない?じゃあなんや・・・。
 セックスか」

「・・・・・・・・・」


誘ったつもりが、無視された。

俺はもう我慢出来なかった。


「ワレ、名前は」
「アカギ」
「アカギ・・・」

俺はアカギに寄って行った。
首筋を舐める。

「んンッ・・・!」

吐息交じりの艶のある声が出る。

「めっちゃ感じるやろ。こんなセックスしたことあるか?
 ぶっ飛ぶで」

上半身裸のアカギを攻める。
触れるだけで、舐めるだけで、アカギは身体をくねらせ
艶のあるたまらない喘ぎ声を聴かせる。
しなやかな肌、引き締まった筋肉、潤んだ目、
コカイン慣れしてる俺はコカインよりもアカギに飛んだ。



右の乳首を舌先で転がして、唾液をつけた左手で左の乳首も弄ぶ。

「ぁあっ・・・!・・・ぅ・・・はぁっ・・・」
「スゴイ声やで。変態みたいや」

たまらない声だ。いやらしすぎる。
コークを打ってる俺も暴走しそうなのを抑えるのに必死だった。

「ん・・・止めろっ・・・!」
「何でや」
「・・・やば・・・ぁ、止め・・・」
「何でや。なぁ」
「あ、はあぁ・・っ・・・  ぁ、ああっ・・・!」

アカギの腰が跳ねた。
射精したようだ。



「上半身イジっただけやで。 フフ
 年の割に早いのう」
「・・・・・・るせぇ・・・・」



アカギの下半身の服を引きずり下ろした。
俺も下半身を脱いだ。
我慢出来ない。

アカギのケツの穴を舐める。唾液をたっぷりつけた舌をねじ込む。

「あ、ぁあ・・・」
「またイく気か?早すぎるで」

コイツ、処女や。
指を入れて前立腺を押す。

「処女か。ここやで・・・
 覚えとけ。ここで感じるんや」

アカギは悲鳴のような喘ぎ声を出し続けていた。
ペニスの先から精液が溢れている。
指で攻めてる間にも何度かイったようだ。

「もうええやろ。入れるで・・・!」

俺はアカギとセックスした。
何度も。何度も。
俺のほうが情けない声を出した。止まらなかった。

丸1日し続けた。
ベッドも床も精液と汗でドロドロになった。家具も倒れた。
気がついたら翌日の夕方だった。



失神したように眠る俺の横で、アカギが目を覚ました。
シャワーを浴びて、俺の箪笥から勝手に服を取り出して着替えている。

「・・・?帰るんかい」

俺も目を覚ました。

「ああ」
「もうちょっと休んでけや・・・」
「退屈が嫌いなんだ」

「退屈、退屈て。
 ワレ、シャブでも足らへんの。
 お前の最高って、何や?」
「・・・・・・・・・
 わかんねぇんだ。
 探しに行って来る。
 ・・・・今日はありがとよ。
 なかなか楽しかったぜ」

ククク、と、少し笑った。
また出会った時と同じアカギになっていた。
退屈そうで、イラついて、苦悩している。

「アカギ。お前いくつや?」
「19」

19歳・・・

出生の年が終戦の年か。
何者や。コイツ。

アカギはそのまま出て行った。

アカギをコカインで俺のジャンキーにして
俺の女にするつもりだったが、
逆だった。
俺はアカギのジャンキーになり、その後追い回したが
居所が常にめちゃくちゃで滅多に見つかることもなく、
会えた所で興味なさそうにあしらわれたりした。




今なら判るが、赤木という男は金にも暴力にもセックスにもほとんど興味が無いのだ。
あの夜は、初めて経験するコカインというドラッグにほんの少し興味を持ったから寝てくれただけだ。


山口の次と言われるほど成長させた原田組の組長である俺も、認める。

俺の器は赤木には適わない。天と地ほどの差だ。






end.